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奪い去るための日々なんて要らない。
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 この作品は義足淑女の凪奏さんから頂いたものです。著作権は凪奏さんに帰属いたしますので、無断転載俄然禁止。素敵過ぎるからって駄目です。

 お読みになられる方は下記の追記からどうぞ。ってか、読むべきだと思うのです。だって、素敵なんですもの。←真似

これは遺書なのです。何故なら、わたしは不幸おんなだからです。ふしあわせな、おんななのです。
このままでは、きっとすぐに死んでしまうのではないか。しあわせも感じられないうちに。
だから、わたしはこの遺書を書いているのです。そして、今。わたしはその遺書を読んでいるのです。

嗚呼。わたしの足元で、今。猫が糞尿を垂れ流しました。


*


些細なことなのです。わたしの不幸など。ですが、その些細なことが多くなると、大きくなるのです。
最初は、公園で遊んでいた少年達の野球の球が、拍手したくなるくらい綺麗に顔に激突しました。
しかも硬式のだということで、わたしの顔はどんどん腫れ上がり、しばらく外を歩けなくなりました。
今でもその少年達は、わたしの顔を見ては大笑い。妖怪だと指を差して笑うのです。
いつしか仲裁が下ればいいと思っています。そうすれば、少しは許せると思うのですが。

その3日後。自転車で橋を渡っていた時のこと。あと少しで渡りきる、そんな時でした。
いきなり突風が吹き荒れ、わたしの自転車とわたしを、勢いよく倒したのです。
反対側にはガードレールという物が無いので、わたしの自転車とわたしは道路に落下。
橋の道と、道路の段差の差は僅か4センチほどです。ですが、勢いよく倒れたら痛いのです。
しかも、自転車がわたしの足に乗っかってしまった為、しばらく動けませんでした。
幸い、その時間帯は車通りが少なかったので、ぐちゃぐちゃに轢かれるということはありませんでした。
ありませんでした、が。わたしは普段助ける側の人間に助けられてしまいました。
腰の曲がった、80歳くらいのお婆さんはわたしを見るや否、自転車を起こしてくれました。
わたしは、お婆さんよりも弱いのでしょうか。「自分の命を大事にせなあかんよ」嗚呼、その通りです。
「まだ若いのに、自殺なんてしたらあかん」自殺を、しようとしてたわけではないのですが。
貴女には、あの突風が解らなかったとでも言うのですか。わたし、だけだったのでしょうか。

更にその2日後。対して伸びていなかったのに、左足の小指の爪が剥がれました。
フローリングに躓いて、運悪く溝にその、小指の爪が入り、それは紅い血と共に剥がれました。
根元まで剥がれたわけではなかったので、爪がなくなったという事態には陥らなかった、ものの。
どうしようもなく痛いのです。血で濡れた小指の爪が、生々しく、グロテスクに光っていました。
その、剥がれた爪を切っていたら、猫が。その、爪切りで飛んだ紅いグロテスクな爪を、食べました。
そのせいでわたしは、痛みより吐気を感じてしまいました。貴方のせいですよ、猫。

そして、その4日後。猫が猫を産みました。なんとその数、3匹。嗚呼、どうしてくれるのです、猫。
わたしは貴方の世話だけで手が一杯なのに、貴方の子供まで面倒を見なければならないのですか。
曾婆さんは「貰い手を捜したらどうだい、」と。ですが、その子供に触れようとすると怒るのです。
いつものにゃあにゃあという声ではなく、しゃーしゃーという、恐ろしい声。
結局わたしは、少し。本当に少しです。子供達を家に置くことを許しました。
でも、月日は流れ、その3ヵ月後。子供達はみんなみんな、猫から離れてしまいました。
猫はにゃあ、と悲しそうに鳴きました。わたしの子供ではないのに、わたしも、悲しくなりました。

些細なことなのです。わたしの不幸など。もしかしたら、人にとっては不幸じゃないのかもしれません。
少年達の球が顔に激突しようが、突風で自転車ごと落ちようが、爪が剥がれようが、いなくなろうが。
でも、それがずっと続くととたら。わたしはきっと、疲れ果てて死んでしまうでしょう。
母に似て、ポジティブな考えを持つわたし。そんなわたしでも、挫折して首を吊ってしまうかもしれません。
だからわたしをこの遺書を、書いたのです。遺書というより、日々の綴りのような気もしますが。
これを見るのは、わたしのことを知る人だけでいいのです。母でも、曾婆さんでも、猫でも。
嗚呼、さようなら。愛しき空よ、愛しき母よ、愛しき曾婆様よ、愛しき猫よ。愛しき、世界よ。


*


どうしてくれるのです、猫。貴方のせいで買ったばかりのカーペットが糞尿だらけではありませんか。
ですが猫を引っ叩いても、それはわたしの怒りが収まるだけ。わたしは黙って、猫を見つめます。
猫、は。にゃあと、機嫌がよさそうに1つ鳴いて、わたしの部屋から出て行きました。
まさか用を足す為だけにここに来たのでしょうか。だとしたら、わたしの部屋も舐められたものです。
糞尿のつんとする臭いが鼻を刺激します。わたしは、その猫の糞尿を片付けようと、立ち上がりました。
すると、なんということでしょう。わたしは、滑ったのです。嗚呼、まさか。そんな、こと。
下は糞尿の溜まり場。嗚呼、現実逃避をしてしまいたいです。

嗚呼、お気に入りの洋服が一瞬にして、汚いものに変わってしまいました。なんということでしょう。


*


「まあ、まあ。なんだいその洋服」
「猫の、糞尿なのです。あの猫は、悪魔です」
「はは、まぁ脱ぎなさい。すぐに洗ってあげるから」

母はわたしを笑いました。隣の曾婆さんもわたしを笑いました。猫は、鳴きました。
わたしは洗面所へ向かう母の後姿を追いかけます。歩くたびに、臭いが辺りに飛ぶのが解りました。
母はくすくすと笑い続け、わたしはむす、としたまま。洗面所につくと、わたしは急いで洋服を脱ぎます。
それを母に渡すと、母は桶に水を張り、そこに洋服を突っ込んで、洗剤を注ぎました。
ばしゃばしゃと音をたてて、洗います。茶色い物体が、浮かび上がります。

「ついでに、お風呂も入ってしまいなさいな」
「はい、」

なんだか悔しくて、目頭が熱いです。嗚呼、こんなくだらないことも。遺書、に書かなくては。
これでわたしの不幸がまた1つ、増えました。どうしてくれるのです、猫。







不幸女の遺書

(もはや、遺書ではなく。不幸日記。でも、だって、不幸なんですもの)




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 義足淑女の凪奏さんから頂いた、というか、無理言って書いていただいた、素敵な小説。ってか、マジ文体とか大好きなんですもの。←だから
 ブログにしてから、いつまでもリンク先をお借りしているのも悪いと思って、こうしたんですけど…これじゃあ、元の素敵さが全然伝わらない、ってゆー! あ、でもきっと本家に行かれれば、素敵なレイアウトで見ることができるかと思いますよ。
 凪奏さん、本当にありがとうございました!
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item by.青の朝陽と黄の柘榴さま
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